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宮崎家庭裁判所延岡支部 昭和48年(少)16号 決定

少年 N・R子(昭三〇・八・二九生)

主文

この事件について審判を開始しない。

理由

第一送致事実ならびに罪名・罰条

本件送致事実は「少年は、延岡市○○町×丁目×番×号○○紙店の従業員であるが、昭和四七年一一月一七日午後九時四〇分ごろ、吸入する目的をもつて購入のため来店した○田○子、○田○子両名に対し、その情を知りながら、同店の事業主○先○子の指示により酢酸エチル及びトルエンを含有する接着剤(サクラボンド二〇ccチューブ入り四本)を同店舗において販売した」というにあり、少年の右所為は毒物及び劇物取締法に違反し、同法第二四条の一第一号、第二六条、同法施行令第三二条の二に該当するというのである。

第二当裁判所の判断

本件記録によれば、少年が「○田○子、○田○子両名の吸入目的の情を知つていた」点を除く外形的事実は認めることができる。よつて、右の点について判断を加える。

毒物及び劇物取締法第二四条の二第一号には「みだりに摂取し、若しくは吸入し、又はこれらの目的で所持することの情を知つて第三条の三に規定する政令で定める物を販売し、又は授与した者」を処罰の対象として規定しているのであるが、右にいう「情を知つて」とは、販売又は授与する者が、それを受ける者において、右に規定された物の摂取、吸入することを確信している場合、又はその際の具体的な裏付から、たぶん摂取、吸入するであろうとの未必的認識をもつている場合を含むが、具体的な裏付のない単純な可能性の認識だけでは足りないものと解するのが相当である。

本件についてこれをみれば、○藤○子の司法警察員に対する昭和四七年一一月一七日供述調書謄本中には「前記ボンドを購入した際、○田○子又は○田○子のいずれかが、ビニール袋も売つてくれるよう頼んだところ、店の者が『ボンド遊びをするのではないか』と尋ねた」旨の記載部分、○田○子の司法警察員に対する供述調書謄本中には「右購入の際、店の人が『ボンドを変な風に使わんで下さい』と言つていた」旨の記載部分があり、右によれば、少年が前記した未必的認識を有していたのではないかと考えられないでもない。しかし、少年の司法巡査に対する供述調書により認められる「前記○田らはボンド購入に際し、その使用目的を『隣の男部屋との壁にはりつけるのに使う』旨述べていた事実」およびその他本件記録に顕れた購入時の具体的事情ならびに本件調査記録を子細に検討すれば、前記供述調書謄本二通の前記記載部分をそのまま措信することはできず、他に前記知情につきこれを認めるに足りる証拠はないから、結局前記した知情の点につき証明がないことに帰着する。

以上によれば、この事件については審判に付することができないから、少年法第一九条第一項によ

り、主文のとおり決定する。

(裁判官 簑田孝行)

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